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2025.04.07

原作・小林有吾先生×北田岳役・富田涼介、朝倉海役・坂泰斗 特別インタビュー!


 
――『フェルマーの料理』のアニメ化にあたり、オーディションで北田岳役に富田涼介さん、朝倉海役に坂泰斗さんが選ばれました。小林先生もオーディションに立ち会われたそうですが、それぞれ選出の決め手はなんだったのでしょうか?
 
小林:オーディションには早い段階から参加させていただいたのですが、ただひとり富田さんのお芝居には「あっ、岳だな」ってピンときてしまったんです。ぼーっとしているけれども、数学分野では他を圧倒する才能をもち、葛藤やコンプレックスも内包している。そういった微妙なニュアンスがにじみ出ていて、声から岳の“純粋さ”を感じました。音響監督さんはじめスタッフ陣も満場一致での抜てきでした。
坂さんについては、ただ一言“狂気性”が決め手。笑い方も印象に残っています。
 
:笑い方! その人の素の部分が出るところですから、とてもうれしいです。富田くんも、素の部分に岳と重なる部分があったからこその抜てきなのではないでしょうか。
 
小林:オーディションに参加されたみなさん、お芝居はお上手なので、そこからもう一歩踏み込んだ、その方の素の部分でキャラクターと合致するところが決め手になったと思います。
 
:今後は、先生のお墨付きで笑っていけます(笑)。
 
――キャストのおふたりが、役を演じるにあたって心がけていることはありますか?
 
富田:僕はもう、とにかく「一生懸命やる」ということに尽きます。僕にとっては岳が初めてオーディションに合格して、いただいた役なんです。しかも主役ということで……。ですから、あれこれと考えるよりも、いつも全力で挑んでいます。先ほど“素の部分”についてのお話がありましたが、僕が一生懸命であることが、岳役に選んでいただいた理由のひとつなんだと思っています。
 
:僕は自分とキャラクターの間に、共通点を見つけるようにしています。「こういうところ、俺と同じだ」というところを探し出していく。普通なら理解しがたい海の狂気的な一面についてもただただ己の力を高めていって、ふと周りを見たら誰もいなくなっていた、という虚しさには共感するところがある。このようにアプローチしていくことで僕と役がリンクしていって、自然体でマイクの前に立つことができると思うんです。僕は、収録後に「もっと、こうしておけばよかったな」みたいに悩むことがないんです。
 
富田:そうなんですか!?
 
:僕はもともとすごく後悔してしまうタイプで、それがとても嫌だったので、今はとことん考えて「もうこれ以上はない」と言えるまでお芝居を作り込むようにしています。だから台本を読み込む時間がとても長くて、1話30分に4~5時間ぐらいかかることもあります。
 
富田:僕は、やりなおしたいところがいっぱいあります……。特に第1話は、本作が初主役、初レギュラーということで「絶対に失敗できない」という意気込みで、ガチガチに役を固めていったんです。ところが気負いすぎて、いただいたディレクションに応えることができなくなってしまったんです。だから第1話は、僕が一方的にボールを投げているだけで、キャッチボールをしてないので、すごく後悔があります。
 
:そういうところが、岳にハマっているんじゃないのかな。岳は一生懸命ボールをぶつけようとしてくれるけど、海はそれをあえて受け取らない。そういう関係性にピッタリだったのかなと思います。
 
小林:ワケがわからないまま、新しい世界に放り込まれるという境遇も岳と合致していますね。
 
富田:僕自身、何もかも新しく体験することばかりで本当に不安でした。だから、いきなり料理の世界に引っ張ってこられてしまった岳の気持ちそのものでした。
 
:こぼれたボールは僕や「K」のキャストが拾うから、富田くんは全力で投げればいい。“一生懸命考えてぶつけたものが届かない”っていうのが、この作品の大事なところでもあるんだから。キャスト陣のキャリアや熱量を考えると、ちょうどいいバランスになっていると思います。
 
――そんな第1話の収録には、小林先生も立ち会われたとのことですね。
 
小林:収録前の通しテストを見て「これで良くない?」って(笑)。その時点で完成度がすごく高くて、あっけに取られてしまいました。収録はとてもスムーズでしたが、他の現場でもこれぐらいのスピード感なんですか?
 
:本作は時間をかけていると思います。アクションがない会話劇なので、細かいニュアンスにもこだわって収録しているんです。
 
小林:第1話に関しては、僕からはほとんど言うことがなかったくらいのアフレコでした。富田くんが汗だくだったのが印象的です(笑)。
 
富田:収録が終わった後に収録ブースで先生とお話するタイミングがあったんですけど、その時が一番緊張して汗をかいてました。小林先生と同じ愛媛県の出身なので、方言でおしゃべりさせていただこうと思ったんですが、緊張のあまりそれもできなくて……。
 
小林:その時は、富田さんに岳について少しだけお話をさせていただきました。主人公は作品にとって非常に比率が大きい存在なので、厳しく見ざるをえなかったんです。率直な意見を言わせていただき、富田さんも音響監督さんも全力で応えてくれました。そんな富田さんの足掻く様子が、岳そのもので微笑ましいなと思っていました。
 

 
――収録現場の雰囲気はいかがですか?
 
:とても和気あいあいとしていると思います。
 
富田:そうですね。
 
:雑談が絶えない現場です。雑談があるのとないのとでは全然違うんですよ。お芝居も好きな人とやった方がいいものが出ますから。僕は「120%全力で投球しても、受け止めて返してくれる」という信頼関係がある方がいいものができると考えているので、自分から積極的に話しかけに行くようにしています。
そんななかで、ひとり緊張してカチカチになっていたのが富田くん(笑)。でも実は、僕から富田くんにアドバイスをするようなことは極力控えています。彼がもがいて苦しんでいる姿が岳というキャラクターにすごく合っているから、僕の考えで染めてしまいたくない。もしかすると厳しい先輩なのかもしれませんが、自分のお芝居を見つけてもらいたいんです。
 
富田:でも、一度明確にアドバイスをいただいたことがありました。第4話の収録後に、音響監督の本山哲さんを交えてお話をしましたね。
 
:作品を良くするために、客観的な言葉が必要な局面なのかなと思いました。誰かから言われないと、自分だけでは絶対に気づけないこともあると思うんです。
 
富田:あの時に言っていただいたことで、それ以降の収録は心持ちも含めてかなり違います。
 
:海もアドバイスらしきことはするけれど、それは遠巻きなものだったりしていて……。
 
富田:まさに一緒です。きっかけはくれるけど、答えを教えられて、これをしろっていうわけではない。
 
:岳が数学的思考のドツボにハマって出口が見えなくなっていたなら、海はなにか言うと思う。それと似たような感じかな。
 
――作中では岳が作ったナポリタンが、物語のカギを握る衝撃的な料理として登場します。みなさんが、これまでに衝撃を受けた料理はありますか?
 
:小学校6年生の時に、両親が仕事から帰ってこなくて、すごくお腹が空いてる時に食べた“日清焼そば UFO”が、世の中にこんなにうまいものがあるのかっていうくらい美味しかったですね。料理アニメのインタビューでカップ麺というのは、われながらどうかと思いますが(苦笑)。
 
富田:僕はお味噌汁です。料理研究家の方が「お味噌汁は何を入れても『◯◯の味噌汁』になってしまう、全部を包み込んでくれる料理なんだ」と言っていたのを聞いて「すごく優しい料理なんだな」と思いました。僕は普段あまり料理をしないのですが、それ以来お味噌汁は定期的に作ります。
 
小林:僕は、漫画家デビューが決まりそうなときに、担当編集さんがごちそうしてくださったマグロのお寿司が忘れられませんね。当時魚市場があった築地に朝イチで連れて行ってもらって、とれたてのお寿司を食べたのですが、口の中でとろけるというか……。単純に美味しいというのもありましたが、「担当さんが僕のために時間を割いてくれているということは、僕は漫画家になれるんだ」という実感が、僕の脳裏にあの味を焼き付かせました。だから、もう二度と味わうことができないおいしさなのかもしれません。
 
富田:あの時、あの場所でというのは大きいですよね。
 
:それが見事に作中にも反映されていますね。まさしく“ノスタルジー”だ。
 
――おふたりから先生に聞いておきたいことはありますか?
 
:声優のお仕事は、キャラクターが存在して初めて成立するものなので、どのような過程でキャラクターが生み出されていくのか、とても興味があります。
 
小林:『フェルマーの料理』の場合は、“数学的な視点から料理する”というテーマが最初にありました。そこで数学にハマる男の子について取材していくと、勤勉で内向的な性格の方が多いことに気づき、すぐに主人公――岳のキャラクター性が決まりました。
そして、そんな主人公を強烈に導くキャラクターは、他人の感情を無視して自分本位で強引に引っ張っていく人間だろう。豪快な性格でもいいのですが、数学という“世界の理(ことわり)”に挑み、自分の世界に没頭していく主人公を動かすなら、理屈が通じないほどの狂気性が必要だと考えました。そうした組み合わせを重ねて『フェルマーの料理』のキャラクターが生まれていきました。
 
:海は小林先生の過去作品『てんまんアラカルト』からの再登場ですが、どんな思惑があったのでしょうか?
 
小林:『フェルマーの料理』は、僕をデビューさせてくれた“月刊少年マガジン”に少しでも貢献したいという思いから生まれた作品でもあります。『アオアシ』の連載で時間がないなかで、月マガ向けに新たな作品を作ろうと考えた時に“料理”というテーマは、まさに月マガの『てんまんアラカルト』で挑戦したことがあるので取り組みやすかったんです。キャラクターたちのことも「あいつら今どうしているのかな」と、頭の片隅に引っかかっていましたしね。
 
富田:『フェルマーの料理』はアニメのほか実写ドラマも制作されましたが、クロスメディア展開の際にはどのような心境になるものなのでしょうか? よく「わが子を嫁に出すような気持ち」という表現を聞きますが。
 
小林:僕にとっては、今回がアニメ『アオアシ』、ドラマ『フェルマーの料理』に次ぐ3回目の映像化ですが、毎回「こんなにワクワクすることはない」というぐらいの高揚感がありますね。漫画家の仕事は、1枚の原稿に向き合って、ひたすら描き続けるという地道な作業。愛媛の仕事場から出ることすらまれで、世界とつながる機会がなかなかありません。そんな僕の作った作品が、色をつけて動かしてもらえる、声をつけてもらえる、音楽をつけてもらえる、そして30分の映像として仕上げてもらえる、その題材として「選んでもらった」感激は、それだけで漫画家をやっていてよかったなって思えるほどです。
 

 
――小林先生から、キャストのおふたりに言っておきたいことはありますか?
 
小林:富田さんは、もう緊張しなくなりましたか?
 
一同:(笑)
 
富田:和気あいあいとしている現場で出演者の方と話せる機会も多いので、みなさんのことが少しずつわかってきて、ガチガチに緊張することはなくなりました(笑)。いまは適度な緊張感をもって収録に臨めていると思います。
 
小林:収録は第7話まで進んでいるんですよね。第1話のアフレコ見学以来、収録にうかがえていないので、久しぶりに富田さんの成長を見るのが楽しみです。坂さんから見て、第1話からキャストのみなさんの演技に変化はありましたか?
 
:みんなのお芝居が変わってきたと思います。富田くんの緊張もいい具合にほぐれてきていますし、「K」のスタッフを演じるキャストの間にも連帯感が生まれてきました。海が強烈な個性をもつスタッフたちをまとめて、トップとしてやっていけている理由には、カリスマ性や厳しさだけではなく、慕われている、親しまれている部分もあると思うんです。そういう空気感がキャストの間にも出てきたなと。やはり雑談は大事ですね。
 
小林:いちばん雑談を振ってくれるのはどなたですか?
 
富田:どのトークの話題でもいつも中心にいる、福田寧々役の池澤春菜さんだと思います。人生の引き出しがとても大きく、かつたくさんある方なのでビックリします。
 
:池澤さんは、作中に登場する料理も結構食べたことがあるそうですよ。キャスト陣はみなさん大先輩ですが、分けへだてなく話してくださるのが、楽しいおしゃべりのきっかけになっていますね。
 
――最後に、ファンのみなさまにひとことメッセージをいただけますでしょうか。
 
富田:第1話の収録の際に先生が収録にいらっしゃって、僕に「岳が『K』のスタッフや周りの人にヒントをもらったり、支えられて料理人になっていくように、富田さんも先輩方に支えていただいて、全12話が終わった時には一人前の立派な声優に成長できていたらいいね」と言ってくださったんです。僕と岳は、自分の置かれている立場や不安感、空回ってしまうところなど、すごく似ているところがあると思うので、一緒に成長していきたいと思っています。
そして本放送を見て、視聴者のみなさまと一緒に深夜に飯テロを食らいたいです(笑)。
 
:『フェルマーの料理』は“料理”と“数学”という、一見かけ離れていそうな、でも実は近しいところがあるジャンルがテーマの作品です。原作漫画の時点で“美味しさ”が伝わってくるのですが、アニメ化によって、音や色、動き、演出などの新たな要素が加わり、それがより増幅されています。
僕自身、海は演じていてとても楽しいキャラクターで「人に難題をふっかける」心地よさを味わっています。それは、意地悪ではなく「どんな化学反応が起こるんだろう」という初めて味わう楽しさです。
ものすごく熱を持った作品ですし、見ているだけで美味しい料理を作りたくなる、食べたくなるはずなので、視聴者のみなさまにも、ぜひお腹を空かせて楽しんでいただければと思っております。
 
小林:僕は原作者というよりも、いちファンとして純粋な気持ちでアニメを楽しみたいと思います。これから、さまざまな新情報が解禁されていくと思いますが、そのたびに子どものようにはしゃいで喜んで、放送をワクワクしながら楽しみに待ちたいと思います。

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